運良く、雨模様

 横浜は連日の雨模様で、幸先の悪いスタートであった。ノートパソコンやら着替えを詰め込んだボストンバッグを抱えながら、傘をさして駅を目指し、満員の電車に乗り込んでは嫌な顔をされる。確かに、荷物が邪魔なのはわかる。だが、チビデブのオッサンどもに囲まれたこっちの方も、随分と気分が悪かった。
 左のオッサンは、朝から『浜崎あゆみ』を大音量で聞き入り、精一杯音漏れをさせて、ファン拡大に躍起になっていた。ただでさえ、迷惑顧みず状態になっている下劣な音楽ファンは大嫌いなのに、いい年してミーハー邦楽を振りまかれると、僕のストレスは一気に絶頂へと向かう。さらに、右のオッサンと右後方のオッサンが音漏れをさせていた。しかも、i-pod…。お門違いなのはわかっているが、やはり、ミーハー振りが目に付いた感じがして、怒りが加速して行った。
 そして、僕の脳内では、3人のオッサンのイヤホンを片っ端から外して行って、「どーせまる聞こえなんだから、このまま聞いてろよ。明日からラジカセ担いで来いよ、ハゲが!」とか、「我慢してやるから、同じ車両の全員に、耳栓揃えて乗車しろよ、ハゲが!」とか、「そんなに大音量で聞きたきゃ、イヤホンはめた状態で、耳にコンクリ流し込んで防音しろや、ハゲが!」などの言葉が、浮かんでは浮かび、消える前に浮かんでいた。
 ただ、毎回ハゲがついた…。っていうか、3人とも、かなりピカピカの中年チビデブサラリーマンだった。「待てよ?」、と思って周囲300°くらいを確認したら、5人のオッサンがいて、イヤホン組みがハゲで、読書組みがハゲかけだった…。
 あとは、悪い癖が出て、車内では苦悶の連続だったよ。頭の中では、「ハゲハゲハゲハゲ…」って言葉が狂ったように巡り続け、もう、笑いを堪えるので手一杯…。「揃いも揃って、ハゲんじゃねえ!」とか「お前ら、ワザとハゲてんだろ?音漏れは許すから、2・3人、生やしてから出社しろよ」などの説教が、やはり、浮かんでは浮かび、消える前に浮かんで、たぶんニヤニヤしてた…。
 まあ、せめてもの救いは、雨模様で朝日が差し込まなかったことだね。たとえ、目をつぶっても、彼らの乱反射攻撃が瞼を貫通して、「わっ、まぶしっ」などと小声で言って、一人で笑い出すからね…。
 そんなこんなで、新幹線乗ろうとして、7時に取った指定席の切符を確認したら、『9:20のぞみ』の切符だった事が発覚した…。みどりのオッサン(窓口)よ。「20分のでいいですか?」って言ってたな?「ええ、いいですよ」って俺も答えたね。でも、この場合、俺が悪いのか?なんで、2時間後なの?一人でイライラしたり、ニヤニヤしてたのは、2時間後の【のぞみちゃん】を待つためだったのか???あんな270KMで走れる女は、2時間も待たないよ。たぶん。いや、待つ…かも。